「エリーのアトリエ」という看板が揺れる、尖った赤い屋根の建物。
薄暗い部屋の中。
工房の隅にうずくまり、ぶつぶつつぶやいている影が一つ。
影は時折悲鳴をあげてひっくりかえる。そしてまた、うずくまる。
「おねえさん、どうしちゃったんだろ・・・」
「変だよね」
「ていうか、怖いよ」
「昨日からずーっとこんな感じ」
「仕事になんないぜ、ベイベ」
色とりどりの服を着て帽子を被った、小さな男の子たち。この工房に雇われている、妖精たちである。
妖精たちはかたまって、ごそごそと影の様子をうかがっていた。
ドンドン。
そのとき、工房のドアがやや乱暴にノックされた。
「おねえさん、お客さんだよ」
妖精たちの中で一番古株の、紺妖精のピックルが、うずくまったままの影を後ろからつついた。
「エリーは留守です・・・」
「いるじゃない、ここに」
「うう・・・今出たくない」
どうやら影の正体はエリーらしい。
「エリー!」
そのときドアの外からかけられた声に、エリーはびくっとして立ち上がった。
「あわわわわ、ダ、ダ、ダグラスだ!どうしよう・・・!!」
エリーはおろおろとその辺りを無意味に動き回った。
「あ、そうか。ダグラスお兄ちゃんの依頼、今日が期日だよね」
「えっへん。フラム、できてるよ」
「いらっしゃーい、ダグラスお兄ちゃん」
「今開けてやるぜ、ベイベ」
「うわわわ!!待って、ちょっと、勝手に・・・」
エリーは後を追おうとしたが、既に緑妖精のピノが黄妖精のポッチュと一緒にドアに手をかけて、開けようとしている。
エリーは慌てて本棚の陰に隠れた。
「よう。頼んでたやつ、できてるか」
「できてますよ」
「はい、これ」
ダグラスは青妖精のプリッツが差し出したフラムを受け取った。
「なんだか暗いな。カーテン締め切ってんのか?」
「うん」
「おねえさんが開けちゃだめだって」
「エリーは?」
「そこに隠れてるぜ、ベイベ」
ポッチュがエリーにとってはかなり余計なことを言う。
「おい、出て来いよ」
「・・・うう」
エリーは下を向いたまま、おずおずとカウンターに出て行った。
「なに隠れてんだよ」
「・・・だって」
「昨日のことだったらな・・・お前が逃げ帰った後からかわれて、ものっすごく大変だったぞ。
全くお前ってやつは・・・」
「ごめんなさい」
エリーは消え入りそうな声でつぶやく。
「で、こいつの代金だが」
「うん」
「おい、下向いてねーで、顔上げろ」
「はい・・・」
エリーがためらいがちに顔を上げると、カウンター越しに手が伸びてきて片頬にあてがわれ、もう一方の頬に柔らかい感触が触れた。
■挿絵提供:かやさん■ |
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<おまけ>
30分後。
再び、工房の部屋がノックされた。
「・・・留守かなあ。あれ、でも鍵が開いてる」
ドアの隙間から、温厚そうな青年の顔がのぞいた。
「エリー、いる?ちょっと頼みたいことが・・・」
その目が見たものは。
口も裂けんばかりの笑みを顔に張り付かせたまま、くるくると踊り狂っているエリーと、
奥で怯えながらそれを見ている妖精たちの姿だった。
「・・・・・・・・・・」
ドアは、無言のまま閉められた。
アカデミートップの秀才ノルディス・フーバーがエリーへの淡い想いを断ち切り、ワイマール家の令嬢アイゼル・ワイマールとの恋に目覚めた、 と風の噂に聞いたのは、その少し後のことである・・・。
≪あとがき≫
≪追記≫
4000hitリクエストで、ダグエリ小説を書かせていただきましたが・・・
あああああ、エリーファンの方、申し訳ございませ――――んっ!!
発作的に浮かんだあほネタです。もう無茶苦茶。
ううう、リクエストしてくださった那美さんにも申し訳ないです・・・。
どうか怒らないでやってね。綾姫の実力なんて、所詮こんなものなのよ。(そういう問題か?)
最後、優しい心で笑ってくださるとよろしいのですけれども。むにゃむにゃ。
素敵な挿絵をかやさんにいただきました!!かやさん、ありがとうございます!(>▽<)