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ザールブルグより人足で1ヶ月程南の空の下。
森の中の、崖にできたくぼみのところに、無謀な戦いを挑んだ錬金術師たちがいた。

エリーはすっかり諦めた様子で、物も言わず崖にもたれかかっていた。
その視線の先で、マリーは力尽き、空ろな目をしている。その唇が茫然とつぶやいた。
「と・・・取り戻したと思ったのに・・・」
「引き際が肝心、ということを知らないようだな。欲を出すとこうなる」
マリーの向かい側にいる男は、黒髪の下からのぞく冷たい目で微笑むと、 地面に置かれた銀貨の袋をを自分の側に引き寄せた。
「もう一度・・・もう一勝負!」
「引き際が肝心、と言っただろう」
男は散らばったカードを集め、手元に揃えた。
「いいかげんにしなよ。ほら、次負けると今度は顔だよ〜」
腕に刺青を施し、背に三つ編みをたらした身軽そうな女が筆と小さな壺をちらつかせる。
「うっ・・・」
マリーは目に涙を溜めて、女を睨みつけた。
「あたしはそんな目的でそれ作ったんじゃないわよ!」
女はマリーの眼光に動じる様子もなく、高らかに笑った。
「こっちの知ったことじゃないよ。 それに、この『消えないインク』、折角もらったのに使い道あんまりなくてつまらないんだもん」
「どうして包帯で隠してるんだ?素晴らしく芸術的だと思ったがな」
男も涼しい顔で女に和する。
「あんたたちってば最悪!最悪の盗賊コンビだわ!」
「ああら、なんて人聴きの悪い。盗賊稼業なんてとっくの昔に足洗ったの、あんたも知ってるくせに。 ・・・というか、誰かさんに洗わせられたようなもんだけど」
「そうだ。俺の盗賊団も、お前にこてんぱんにされて解散したんだぞ。忘れたのか」
「忘れるわけないわ、あたしはあんたたちを更生させた上に、 冒険者稼業はじめたときには雇ってやったじゃないの。なのになんなのよ、この仕打ちは!!」
マリーはじたじたと暴れた。
「俺たちは別にいかさまやってるわけじゃないぞ」
「弱いくせに賭けカードに応じたのはあんたでしょ、マリー」
「そうですよマルローネさん、わたしが止めるのも聞かずに」
エリーまでがそれに和した。
マリーは味方に裏切られ、ショックを受ける。
「ひ・・・ひどい。エリー、信じてたのに」
「わたしは最初から止めてるのに、マルローネさんが聞かなかったんじゃないですか。 どうするんですか、お金もアイテムもとられて」
「みんな嫌いだあっ!!」
マリーはがばっと立ち上がり、走り去ろうとしてふらついた。
「おっと」
男がそれを抱きとめる。
「無茶するな。寝不足に二日酔いなんだろう?」
「放してよ〜!」

「マルローネさん!」
「エリー!!」

その時突然、森の中から何かが飛び出してきた。

「?!」
「・・・?」
「!!」
「?!!!」

4人の目が点になる。

「マルローネさんを放しなさい!」
その小動物のようなものは男を睨みながら、威嚇した。

「エリーに触るな!」
その左で、似たような生物が短い剣をまるで大ぶりの剣のように構え、甲高い声をはりあげた。


■スクープ写真提供:えみゅ〜さん■

一見、人間の子供。
右はかしこそうな顔で、紫がかった銀髪に静かな青い瞳。前髪を額の中央で分け、眼鏡をかけている。
左は赤毛に近い髪を無造作に整え、凛々しい眉の下に勇ましげな青い双眸を光らせている。
しかし双方共、頭にはにょっきりとふたつの毛に覆われた三角形の物体・・・猫の耳のようなもの・・・が、生えている。
そして背後には、にょこにょこと動くしっぽ。

最初に口を開いたのは、マリーを抱きとめている男だった。

「・・・なんだ、お前ら」

「わけあってこんな姿になってるが、なめんなよ!これでも俺は、王室騎士隊員だ!!」
「わたしも侮られるような相手ではない。大人しくマルローネさんたちを解放しなさい!」
・・・とは言われても、かわいいボーイソプラノボイスである。全く迫力がない。
そのとき、右に立つ猫型の子供の目が、眼鏡の奥であっと見開かれた。
「・・・シュワルベ?」
「えっ?!し、知り合いか?」
「そっちにいるのは、ナタリエ・・・」

「きゃああああああああー!!!!」
「いやああああああああー!!!!」

全てのセリフは、その後に続く黄色い悲鳴にかき消された。
もちろん、その声の主はマリーとエリー。

「クライス、クライスっ!!しっぽつきクライス!!かわいいい!!」
「ダグラス、ちっちゃい!うそお、猫耳ついちゃってる!いやあああん!!」

あまりの愛らしさに、寝不足で残りわずかとなっていた理性を打ち砕かれた女二人は、 本能の赴くままに二人を抱きしめ、ほおずりし、撫でまわした。
クライスとダグラスはわけもわからずもみくちゃにされながら、 真っ赤な顔で状況を理解しようと必死になっていた。

ナタリエは、お腹を抱えて笑い転がっている。
シュワルベは、顔を伏せて口元を押さえたまま、肩を震わせている。

「おねえちゃんたち、無事だったんだねー!」

後からやってきたピルチェの喜びの声が、間の抜けたように響いた。


数十分後。
クライスとダグラスは茫然としたまま、それぞれご満悦のマリーとエリーの膝の上に座っていた。
ナタリエとシュワルベは「いいものを見せてもらった」と言って、一同に食事を振舞ってくれた。 ・・・巻き上げたものは返してもらえなかったが。
しかし、マリーもエリーもそんなことはもうどうでもいい、といった様子だ。
「なぜ・・・こんなことに」
「さっぱりわかんねえのは俺の方だよ・・・」

丁度冒険者コンビを組んでいたシュワルベとナタリエに再会したマリーとエリーは、 最近流行りはじめているというカードゲームを教えてもらったのだが、 何故かそのうちムキになって賭けカードが始まってしまった。
だが、初心者のマリーが勝てるわけがない。こてんぱんにやられて、有り金を全部取られてしまった。
悔しいマリーはなんとか取り戻そうと、エリーが止めるのも聞かずにアイテムまで賭けたがそれも失い、 最後にはナタリエのいたずらを許す羽目になった。
包帯はそのいたずら描きを隠すためのもので、怪我ではない。 「盗賊」というのも、元盗賊というのであって、現役の盗賊というわけではない。
ピルチェは、留守にしていたため事情をのみこんでおらず、完全に誤解していたのである。

そういう成り行きの事情は聞いたのだが・・・

なぜ、膝の上になんて座らされているのだろう。
どうして、飛び出す前にもっと慎重に様子を見なかったのだろう。

効果の発動を早める工夫までして、秘薬「若返りの猫薬(改訂版)」を飲んだのに・・・
常識では考えられない猛スピードの、恐怖の空の旅に耐えて、ようやくたどりついたのに・・・
恥をかくだけの無駄足だったとは。

・・・そして、最大の謎。
むなしいはずなのにどうして、ちょっと嬉しい気分なのだろう・・・・・。


<おまけ> 〜エピローグのエピローグ〜

「ん?ダグラス、服の下からなんか出てるよ?」
エリーがつまんだものを見て、ダグラスの顔色が変わった。
「そ、それは!!」
「あっ、わたしがあげたロケットだ。 なあんだダグラス、『こんなもんつけられるか!』とか言ってたくせに」
ロケットの鎖は5歳児サイズのダグラスには長すぎて、ロケットが服からはみ出してしまったらしい。
「これは、たまたまだ!!偶然・・・服にくっついてたんだ!」
「ふ〜ん。まあ、そういうことにしておくよ。ありがと、ダグラス」
「違うっつってるだろ!!」
「はいはい」
エリーはにこにこと頷いた。それから、胸元に手を入れて、何かをひっぱりだす。
「これ、なーんだ」
・・・ダグラスがつけているのと同じ形のロケットだ。
「中身は見せてあげないけどね」
いたずらっぽく、微笑む。
ダグラスは顔が熱くなるのを感じて、うつむいた。

「そういえばマルローネさん、この包帯の下の落書きって・・・」
クライスを膝に乗せていたマリーの体がぴくっと固まった。
「消えないインクを消すアイテムは今研究中なの!」
「消えないインクで書かれたんですか?」
「・・・・・・・・・・」
「それは大変ですね」
「・・・・・・・うん」
「それより、降ろしてください」
「だめっ。降りたらピルチェ使用禁止。今日中に帰れないわよ、いいの?」
マリーはしばらく警戒していたが、クライスがそれ以上落書きに関して何も言わないのを見て、安心したようだ。
食事をしながら会話を楽しんでいたが、食事も終わり、 マリーとエリーは少々の荷物を残してきた、自分たちのキャンプ地に戻ることにした。
「そんじゃ、おいとましますか」
マリーはクライスを抱きかかえたまま、座っていた丸木から立ち上がった。
と、その途端、包帯がはらりと落ちた。
「あっ!!」
エリーが声をあげ、ダグラスは目を見張った。
マリーは包帯が落ちたことに気付き、固まる。
「いやあああ!!!」
マリーはクライスを放り出して、ひざを抱え、うずくまった。
「クライス、何かしたの?!!」
「いいえ。ちょっと、液化溶剤がこぼれてしまったようですが。 それで包帯の繊維の一部が溶けたのかもしれませんね」
クライスは涼しい顔で答えた。
マリーが隠す手の間から、複数のハートマークが見える。
どうやら一面にハートマークを書かれてしまったようだな、 なるほどちょっと恥ずかしいかもしれない、などと思っていると、
「わたしのハートは、クライスのもの」
・・・ダグラスがつぶやいた。
「?!!」
「あ、いや、違う!そんな顔すんなよ、俺のセリフじゃないって!ひざのとこに・・・」
ダグラスはマリーを指差す。
「うああああ!!」
マリーは真っ赤になって叫んだ。
「違うの、言っとくけど、これナタリエの落書きだからね!!」
「・・・わかってますよ、そんなの」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・!」
「・・・・・・・!」
二人はしばらくまるで敵同志のように睨み合っていたが、そのうち耐えられなくなったのか、同時に目を伏せた。
ナタリエはこっそり口笛を吹き、ダグラスとエリーは顔を見合わせて吹き出した。

Fin.


≪あとがき≫
えみゅ〜さんの12345hitリクエスト「ダグエリ小説」にお応えすると同時に、 個人的に自作クラマリ小説「若返りの妙薬」「復讐の嬉劇」の続編として書かせていただきましたが・・・。
お待たせした割に、はっきり言って駄作な出来になってしまいました。(滝汗)
オリジナルアイテムやオリジナル設定出しまくりで、かなり原作を逸脱したアトリエ小説になってしまった。(T_T)
あ〜あ・・・前作まででやめときゃよかったのに。
マリーとエリーがわたしみたいに(笑)ショタだというつもりはありません。
好きな人の縮小版だからこそ、理性ぶっこわれそうにかわいいんだと思います。
その証拠に、マリーはダグラス、エリーはクライスに目もくれてない。(爆)
ええと・・・
こんな無理矢理小説でもよろしければどうかもらってやってください、えみゅ〜さん。
12345hitありがとうございました。

追記:えみゅ〜さんに貴重なスクープ写真をいただきました。ありがとうございました!
   えみゅ〜さんのHP「ザールブルグタイムス」ではさらに2枚の白黒挿絵を見ることができます。
   ダグがロケット見てるとこと、マリー&エリーが壊れて抱き抱きやってるとこです、必見です!


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