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●2000.10.24 はとぽっぽさん寄贈作品●


新年の約束


じゃ、決まりね。そのとき、わたしに何かちょうだい!



・・・ねえ、そういえば知ってる?初日の出にまつわる伝説。


“出で初めし日の光、二つの影を包む朝(とき)、貢を手にする乙女、そのかたわれと共に歩まん”


新年の朝、ふたりきりで初日の出を見ながら男性が女性にプレゼントをすると、その恋人たちは必ず結ばれるんですって。


・・・あら、どうしたの坊や。幸福のワインより真っ赤よ?ふふふ・・・・・・




―ゴーン・・・ゴーン・・・ゴーン・・・―
「!!!!!」
いつものように、教会の鐘の音で目を覚ます。いつもと同じ朝。
ただ1つ違うのは、彼が寝汗をかいていた事。彼…ダグラスは、夢の中でいつまでも響きつづけていた踊り子のロマージュの声と、じっとりとした感覚にうんざりしながら体を起こした。
今日は、非番だ。
だからといっていつものようにのんびりしているわけにもいかない。
彼は非番の日の日課どおり、朝食のあと軽く部屋の掃除をしはじめた。
掃除も一通り終り、ふと顔を上げた彼の視線が壁の一点で止まる。そこには一年間使ってきたカレンダーがあり、12月20日のところにぐるっと赤いインクで○がつけてあった。
「明日か……。」
明日、彼はエリーと共にヴィラント山へ行くことになっている。2人で初日の出を見る予定なのだ。そしてそこでエリーに何かプレゼントしなければいけないのだが…
「……………。」
まだ、プレゼントの用意をしていないのだ。お金は、昨日給料の前借りをしてきたのである程度はある。
「……行くか。」

場面は変わって、ここは街の中でも異色の通り。婦人や紳士が行き交い、高級なものばかりを取り扱う店が集まっている。
そこをダグラスは歩いていた。が、後悔していた。
そこらじゅうがキラキラと輝いて、立っているだけで目がくらんでくる。歩き方まで、思わずこそこそとしたものになってしまう。
…やはり、自分の来るところではなかった。通りに入るときにもそれなりの覚悟をしたつもりだったが…そんなものは、とうの昔に消え去っていた。
これが、貴族との格の違いって事か……
負け惜しみのような、何とも情けないことを思いつつ、彼は足早に通りを抜けることにした。これ以上ここにいてはいけない、彼の中の何かがそう告げていた。
仕方ねえ、やっぱ職人通りに行くか…
最初からそうしておけばよかった、後悔先に立たずとはこのことを言うのだろうか。
ぶつぶつといいながら職人通りの方向へ角を曲がると、そこに先程までとは少し違う宝石店があった。
ショウウィンドウで宝石が自己主張をしているとか、店員が張り付いたような笑顔で近寄って来るとかではなく、どちらかというと露店のような感じだった。
「……………。」
気が付いたときには、足を止めてその店を覗き込んでいた。
石の入っていない指輪が等間隔に並べられ、長さや形の違うチェーンが吊り下げられ、色とりどりの石が用意されている。
「あのー…ここは?」
「ここは、主にオーダーメイドで作っている店です。でも、少し品質の劣る、表のお店では出せないようなものも置いていますよ。」
店の奥にいる女性は、手は止めずにそう返してきた。
「…表の店?」
「ええ。通りに面しているほうのお店ですよ。むこうとは、中でつながっているんです。」
「ああ、なるほど…。」
言いながら、店の商品を見まわしてみる。
シンプルな指輪、石をつける必要もないほどすでに派手な指輪もある。
チェーンのほうは、ペンダントを通す用のシンプルなものが多い。
「……………。」
どうせ贈るんなら、印象に残る方法がいいとは思っていた。ただ、方法を思いつかなかっただけ。
でも、これなら……
……よし、決めた。
「あの、これ……」
女性が手を止めて、立ち上がった。

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