もう日も暮れるころ、クライスはようやく覚悟を決めた。
こうなったら責任をもって、とことんこの状態のマルローネさんに付き合うことにしましょう。
いえ、わたしは別に、このマルローネさんと遊んでいたいとか、そういう訳ではないんですよ。
研究者として、薬品の影響を受けた個体の観察・調査を行なうのは重要な・・・
そのとき、マリーがクライスの袖をひっぱった。
「クライス、マリーもうねむくなっちゃった」
「あ、そうですか。では、もう寝ますか?」
「クライスもいっしょにねようよ」
「・・・は?」
クライスは赤くなってかぶりをふった。
「だ、駄目ですよ、一人で寝てください!」
「だって、ベッドひとつしかないよ」
「わたしはソファで寝ます!」
「じゃあマリーもソファでねる」
「だ・・・駄目と言ったら駄目です!」
「う・・・」
マリーの猫耳がぺたっとふせった。しっぽがにょこにょこ、と動く。
「なんで?やだよ、ひとりでねるの、こわい」
挿絵:綾姫 |
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うがあああ!
激らぶりー。
またもや、あるまじき単語が脳内を駆け巡った。
「・・・わかりました」
しかも、気が付けばそんなことを口走っている。
どうしたんだ、どうしてしまったんだ、今日のわたしは!
「やったあ!」
マリーは無邪気にばんざいをした。
くっ・・・!違いますよ。
わたしは断じて、断じて、断じて、変態ではありません!!
マルローネさんのわがままに付き合わされているだけです!
その後、マリーに寄り添われて床についたクライスは、眠れぬ夜を迎えるのであった・・・。
マリーは、差し込む朝日とさえずる鳥の声で目を覚ました。
「んー・・・」
なんだか、あったかくて気持ちいい。
もう一度、まどろみに身をまかせようとした、その時。
「?!」
マリーは自分が抱き枕にしているものに気付いた。
「ク・・・クク、クラ、クラ」
クライス?!!
「う・・・ん」
クライスは眉をしかめてうっすらと目を開けた。
眼鏡を通さない素のままの視線が、マリーの視線とぶつかる。
その目は一瞬、いぶかしげに細められ・・・次に理知の光が宿った瞬間、首筋がすーっと赤く染まっていった。
「マ、マルローネさん・・・?」
「きゃ―――――――――――っっ!!!」
思いっきり突き飛ばされたクライスは、ベッドの下にごろごろと転がった。
「な、なんで?うそっ、どうして」
マリーはパニック状態に陥っている。
クライスは身を起こし、驚愕の表情でマリーを見た。すでに猫耳もしっぽも消え、原寸大である。
一週間は続くと見ていたのだが、昨日の薬品の影響で効力期間が縮まったのだろうか。
クライスの視線を感じたマリーは、自分の体を見下ろした。
身に付けているのはシャツ一枚。その下から、白くて長い足がむき出しになっている。
「いやああああ!!クライスのエッチ―――――っ!!」
枕を投げつけて、マリーは叫んだ。
「ばかーっ!見ないでよ!!」
普段あれだけ露出度の高い服を着ているくせに、それとこれとは違うらしい。
「眼鏡なしではどうせよく見えません!それより、落ち着いて・・・」
「どうしてクライスが、あたしのベッドにいるのよ!!」
「よく見なさい!ここはわたしの部屋です!」
「何したのよ。どうしてあたしこんな格好でクライスと寝てたの?!」
「何もしてませんよ!昨日のことは覚えてないんですか?」
「知らないっ!」
マリーは真っ赤な顔でベッドから飛び降り、ドアに走った。
ばん!と勢いよくドアを開いたマリーだったが、なぜかそこで立ち止まる。
「あっ・・・」
クライスは、眼鏡をかけて立ち上がり、マリーの肩越しにドアの向こうを見た。
・・・そこには、青ざめたイクシーの顔があった。騒ぎを聞きつけ、様子を見に来たらしい。
イクシーは寝乱れた様子の二人を見比べ、シーツがぐちゃぐちゃになっているベッドに目をやった。
それから事態をどう理解したのか、クライスに軽蔑の視線を向けた。
クライスは、目の前が真っ暗になるのを感じた・・・。
その後、マリーは戸棚から落ちたところまでを思い出したので、なんとか本人にだけは事情を納得してもらうことができた。
が、しかし。
人のうわさだけは、止められない。
内容がどんなものになっているかは知らないが、人に会う度に、独特の、怪しい視線が投げかけられる。
変態扱いよりは、玩具扱いの方が、ましだった・・・。
悔やんだが、もう遅い。
クライスはもう決して無駄なリベンジなど試みないことを胸に誓った。
・・・でも。
この事件を思い出している時に限って、今日はいやに機嫌が良さそうだと言われるのは、なぜだろうか・・・。
≪あとがき≫
知佳さんの「続編が見たい」というリクエストにお応えして、書かせていただきましたが・・・
ぎゃあああ。なんて話になってしまったんだー!!暴走しすぎだぞ、わたし!!
もしかしなくても・・・前回を凌ぐ禁断???しかも、なんとなくエロっちくないか?
ひいいい。ごめんなさい、わたしはくずです。あああ、何とでも言って―――!!
・・・でも。
もし、もし、これで喜んでくださる方がいらっしゃるのなら。
あなたにこの言葉を贈ります。
「同志」。
秘薬【若返りの猫薬(びょうやく)改訂版】レシピ
若返りの猫薬
1.0
絶滅寸前の実
1.0
針樹の果肉
1.0
魔法の草
2.0
中和剤(緑)
1.0
使用器具・・・ガラス器具、乳鉢