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家へ帰りつくと、クライスはさっそく姉の部屋へ急いだ。
姉のアウラは、ここ数日、材料の採取のために東の方の湖へ出かけている。
姉が持っている参考書は、きちんと整理して机の上に立てて並べてある。
しかし、アウラもまだ1年生なので、それほど多くの書物を持っているわけではない。
クライスは、『絵で見る錬金術』を元のところに戻すと、他の本を取り出してみた。
『初等錬金術講座』というのがあった。これなら半分くらいは読める。姉の書き込みも役に立った。しかし、次に取り出した『中等錬金術講座』になると、もうクライスの手には負えなかった。
ということは、『絵で見る錬金術』と『初等錬金術講座』しか、クライスの薬作りには役に立たないということだ。
クライスは、2冊の本を持って自分の部屋に戻ると、1ページ1ページを、なめるように見ていった。
「やっぱり、これしかないみたいだな。・・・『アルテナの水』」
そこには、材料も調合方法も記されていた。
しかし、まず材料を手に入れることはできるのだろうか?
本によれば、『アルテナの水』を作るには、『蒸留水』『ほうれんそう』『中和剤(緑)』が必要だという。
『中和剤(緑)』の作り方は、『絵で見る錬金術』に載っているので、クライスにもできそうだ。しかし、『蒸留水』の作り方はわからない。あと、『ほうれんそう』をどこで手に入れればいいかもわからない。
「やっぱり、だめか・・・」
ずり落ちてきた大きめな眼鏡の位置を整え、クライスは考え込んだ。
姉は、3日後には採取旅行から戻ってくる。姉の道具を借りて薬を調合するなら、明後日いっぱいで終わらせなければならない。
クライスは、足をしのばせて姉の部屋へ戻ると、棚をじっと見回した。
薬品のストックを入れたビンが、いくつも並んでいる。
それらのなかに、『蒸留水』とラベルを貼ったビンがあった。
(姉さん、ごめんなさい)
心の中で姉に謝ると、クライスは椅子の上に乗って手を伸ばし、『蒸留水』のビンをつかんだ。
『中和剤(緑)』の材料である『魔法の草』は、近くの森に生えているので、後で採りに行けば良い。問題は、『ほうれんそう』である。
もちろん、アカデミー内の売店で『ほうれんそう』は売られているが、クライスはそのことを知らない。
とにかく、探してみるしかない。
クライスは、再び家を出た。
中央通りを横切り、さまざまな店が雑多に寄り集まっている通称『職人通り』に向かう。
そこには、王国中からありとあらゆる品物が集まっていると言われていた。そこで見つけることができなければ、ザールブルグのどこへ行っても見つからないだろう。
足早に行き交うおかみさんや職人たちの間を縫うようにして、クライスは歩き回った。だが、目当ての品は見つからない。
「うわっ!」
後ろから、誰かがぶつかってきた。
体重が軽いクライスは、跳ね飛ばされて石畳の舗道に倒れる。
「あ、ごめん。大丈夫かい?」
どこかで聞いた声だ。
「あ、あなたはさっきの」
近くの森で出会った少年だった。
「こんなところで、なにしてるの」
クライスの問いに、少年は逆に尋ねてきた。
「きみこそ、何をしてるんだい」
人のよさそうな少年の目を見て、クライスは『ほうれんそう』を探していることを話した。
「そうかい。『ほうれんそう』か・・・」
少年は、しばらく天を仰いで考えていたが、やがて顔を輝かせて、
「ぼく、ある場所を知ってるよ。一緒に来て」
と、北に向かって歩き出した。
他に頼れるものがないクライスは、後に続くしかなかった。


「ね、ねえ・・・。ここって、まさか」
クライスがおびえたように言う。
少年は笑顔で振り返り、
「そう。お城の菜園だよ。ここでは最高級の野菜や果物を作っているからね。『ほうれんそう』だって上等のものがあるよ」
「だって・・・これって、お城のものを盗むってことだよ。ぼくたち、捕まって牢屋に入れられちゃうよ」
そこは、シグザール城の中庭のはずれにある菜園だった。
どこをどう通ってきたのか、少年の後について行くうちに、こんな場所へ出てしまったのだ。
「さ、あったよ。ほうれんそうだ」
少年は、濃い緑色をしたつややかな株を地面から抜き、クライスに手渡す。クライスの両手は、ぶるぶると震えた。
その時・・・。
「何をしている!」
頭上から、凛とした声が響き渡った。
思わずクライスは、年上の少年の陰に隠れる。
でも、心の中では観念していた。このまま捕まって、牢屋に入れられる。両親や姉はどう思うだろう・・・。
ところが、クライスをこの厄介事に巻き込んだ当の少年は、ゆっくり立ち上がると、
「やあ、シスカか。見回り、ご苦労様」
聖騎士の鎧に身を固めた女騎士は、あきれたように言う。
「殿下! また姿をお見せにならないと思っていたら、野菜泥棒の真似事ですか! もう少し、ご自分の立場をわきまえていただかないと・・・」
王国の第一王位継承権者ブレドルフは、手を振って言う。
「わかったよ。それより、ぼくの友達を、帰してあげてもいいだろう?」
クライスの目は点になっていた。あんぐりと口を開けて、王子と女騎士を交互に見つめている。
ともかく、これで『アルテナの水』を作るための材料は揃ったのだ。


翌日。
クライスは、再び姉の部屋へ足を運んだ。
作業台には手が届かないので、床に道具と材料を置く。
参考書も、該当のページを広げて置いてある。
まずは、『中和剤(緑)』の作製である。
採ってきた『魔法の草』の葉だけを乳鉢に入れ、すりつぶしていく。
鮮やかな緑色をした液体が、だんだんと溜まっていく。それに水を加え、上に浮かんだかすをこし取れば、『中和剤(緑)』が完成する。
いよいよ次は、今回の目的『アルテナの水』の調合だ。
いったん洗った乳鉢に、王室の菜園でもらった『ほうれんそう』を入れ、すりつぶしていく。この辺の作業は、先ほどの中和剤作りと変わりない。
やがて、『ほうれんそう』は、どろどろした緑色のペースト状に変わる。
あとは、参考書に書いてある通り・・・『蒸留水』3、『ほうれんそう』1、『中和剤(緑)』1の割合で、溶かしあわせれば良い。
その時、クライスは、姉の言葉を思い出していた。
(錬金術はね、人を幸せにするためにあるのだそうよ。だから、あたしは、薬の調合をする時には、その薬を飲む人が治りますようにって、祈りながら作業することにしているわ)
クライスは、シアの寂しそうな笑顔を思い出していた。
(シアの、からだが良くなりますように・・・)
祈りながら、ビーカーに試験管を傾け、そっと材料を混ぜ合わせる。
一緒にされた材料は、いっとき、緑色のまだら模様となったが、ガラス棒でかきまぜるうちに、きれいに澄んだ薄緑色のさらさらした液体に変わっていた。
参考書に書いてある絵と、ほとんど変わらない色をしている。
「やったあ!」
クライスは、できた薬をビンに詰めると、後片づけもせずに、家を飛び出して言った。予定より1日早く戻ってきたアウラが、茫然と立ちすくんだこと、帰って来たクライスが長々とお説教をされたことは言うまでもない。


その日の夕方。
ドナースターク家の一室で、シアは手紙を書いていた。
故郷のグランビル村に残っている親友に宛てたものである。

「親愛なるマリーへ
元気にしているかしら? こんなことを言わなくても、マリーはいつも元気よね?
ザールブルグへ来てから、あまりからだの調子がよくなくて、外にも出られなかったけれど、ようやく友達ができました。年下の男の子なんだけど。マリーとも、いいお友達になれるんじゃないかしら?
それからマリー、錬金術って、知ってる? 薬とか、魔法の道具とか、いろいろと作り出せる学問らしいの。マリーも、こういうことには興味があるんじゃないかしら。
マリーも早く、ザールブルグに出てくればいいのに。
また一緒に遊べる日が早く来ることを願っているわ。

あなたの親友 シア・ドナースターク」

手紙に封をして、宛名を書き終わると、シアはサイドテーブルに置かれた薬ビンを見て、くすっと笑った。


≪綾姫より≫
某所のキャラ絵を描いてあげたお礼として、いただいてしまいましたが・・・・・
おいしすぎ!!!!!
もおお、クライスかわいすぎ!!!あの性格にショタ属性が加わって、なんともいえずつぼ突きまくりです!綾姫はにやけて悶えちゃってもう死にそう。(笑)
しかも、シアにプレドルフにシスカ。キャストもおいしいですね♪嬉しいですね♪
それにしても、いきなりアルテナの水を作っちゃうなんて、さすがにクライスというか。小さいころからすごかったんですねえ。そして小さいころから年上に弱かったと。(笑)
ああ、ほんとにこんな素敵なものいただいちゃっていいのかしら〜。
○に様、ありがとうございます!ビバ☆ちびクライスv(夢心地)


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