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本当に、いままで何をしてたんだ、俺は?
ひとりでふてくされて、大事なものを失うにまかせていた。
すねた子供と同じだ。

見慣れた工房。俺はノックもせずに扉を開けて飛び込んだ。
「エリー!」
・・・ぞっとする静けさがそこにあった。
室内はきれいに片付いており、人気もない。
「エリー、いないのか!!」
返事は返ってこない。
鎧もマントもつけずに部屋から飛び出してきた俺に、急に冬の寒さが襲いかかった。
「くそっ!」
もう、行ってしまったのか・・・?
虚無感を必死ではねつける。手遅れとは限らない!

外へ飛び出した俺は、城門へ向かった。
だが、エリーはまだ街から出てはいないらしい。門番は彼女を見ていなかった。
それならアカデミーで別れを告げているのかと、向かった先にもいない。
飛翔亭にもいない。武器屋にもいない。時間だけが過ぎてゆく。焦りが胸をさいなむ。
次に頭に浮かんだのは、ルーウェンの下宿。
おぼつかない記憶を辿りながら走っていると、かすかな叫び声が聞こえた。
思わず立ち止まり、振り向いて見ると、道のずっと先の方から走ってくる人影が見える。
俺はしばらく足が地面に貼り付いたように立ち尽くしていたが、やっと我に返って走り出した。
エリーだ。エリーが走ってくる。
泣いている。その姿がどんどん大きくなる。
「ダグラスううう!」
泣き顔が俺の肩にぶつかった。
「この野郎、どこに行ってたんだ!!」
ほっとして、怒鳴りつけてしまった。
「こっちのセリフだよ、どこ行ってたの?ずっと探してたのに」
「俺だってエリーを探してたんだ!」
エリーは泣き笑いの表情を浮かべて俺を見た。
「じゃあ、すれ違ってたんだね」
「何泣いてるんだよ」
「ダグラスがいないんだもん」
「いるだろ!」
「さっきまでいなかったもん〜」
「こら、また泣くな!」
俺はエリーの顔を胸に押し付けた。そのまま、肩に腕を回す。
「わたし、ちゃんと言ってなかったから・・・待ってばかりだったから・・・」
エリーがなにかもごもご言っているが、俺は無視して腕に力を込めた。
「むごっ・・・・・」
エリーの言葉が途切れる。きっと息もできないに違いない。エリーが苦しそうに背中を叩き、俺は少し力を緩めた。そのまま、耳元に顔を近づける。
「行くな」
エリーが驚いたような顔をして、俺を見上げた。
「行くな・・・俺のそばにいてくれ」
腕の中で、エリーがかすかに震えた。
「ダグラス・・・?」
「誰にも渡したくない。・・・エリーが好きなんだ」
「・・・ダグラス」
エリーが背伸びをして、俺の頬に自分の頬をこすりつけた。


■挿絵提供:うるるんさん■

「行かないよ。ダグラスが好きだから、行かない」
「エリー?」
「わたし、ずるかったね。ダグラスに行くなって言って欲しかったの。ダグラスがわたしのこと、なんとも思ってないのなら、好きになってくれる人と一緒にいる方がいいとか、思っちゃったの」
エリーは頬を離した。
「・・・でもね。荷造りしてたら、悲しくて、悲しくて・・・。わたしの気持ちも知らないで、って思って、そのとき気付いたの。言ってないんだから、わかるはずないって。わたし、傷つくのを怖がって逃げてるって」
・・・それは、俺も同じだった。
エリーは俺の首に腕を回した。
「大好きだよ。ずっとずっと好きだった」
「エリー・・・」
エリーの白い息が、俺の口先を撫でた。その熱い霧をかきわけて、俺はやわらかな唇を探し当てた。

と、その時。

わあっ、と物凄い歓声が沸きあがり、俺は我に返って辺りを見回した。
!!!!!!!!!!
「あ・・・・・やだっ」
エリーは真っ赤な顔を俺の胸に埋めた。

ここは、大通りの真ん中。夢中だった俺たちは、そのことをすっかり忘れていた。
いつのまにやら周りには人垣が出来ており、俺たちは注目の的となっていた。
逃げようにも、周りを取り囲まれている。
人垣の中に、無表情で拍手を送っているエンデルク隊長を見つけ、俺はさらに気が遠くなった。
だが、腕の中のエリーを放す気だけは、毛頭なかった。


<エピローグ>

城門の外。
石の上に腰掛けた男の目に、歩み寄る影が映った。
「・・・よう」
男は目を上げ、微笑みかけた。
「見送りか、ノルディス」
ノルディスは静かに頷いた。
「・・・ルーウェンさん、エリーは来ませんよ」
「だろうな」
ルーウェンはよっ、という掛け声と共に立ち上がった。
「こういうことになるだろうとは思ってたよ。まあ、万に一つ・・・賭けてみる気もないじゃなかったが」
「わかりますよ」
二人は顔を見合わせて苦笑した。
「もう、戻ってこないんですか」
「そうだな・・・多分。でも、あいつがエリーを不幸にしたときは、駆けつけるぜ」
「あ、それは僕がいるから必要ありませんよ」
「言ったな、こいつ」
ルーウェンはノルディスを軽く小突いて笑った。
「元気でな」
「ルーウェンさんも」
ルーウェンは頷くと荷物を抱え直し、ザールブルグを振り向いて、目を細めた。
「・・・・・幸せにな、エリー」
白い息が、風に溶けた。

Fin.


≪あとがき≫
美月倫さんの7777hitリクエスト「激甘ダグエリで、ルーとノルをダグのライバルって形で登場」にお応えして書かせていただきました。
が・・・
ごめんなさいごめんなさい、多分希望とは違った出来になってしまったと思いますー!(T_T)
ふおおお。(ToT)力量不足に泣けます。ライバル2人を蹴ってしかも激甘、というのはなかなかに難しかったです。
ノルは「すでに散ったライバル」で、まるっきり協力者になっちゃってるし。ルーウェンさんなんか初登場なのに、出てこないも同然の扱いでかわいそうすぎる・・・。
そして・・・激甘になったのかどうか。一応、わたしのアトリエ小説では初めてのほっぺじゃないキスシーン出してみましたけれども・・・。
それに、手法的に読みにくくて難解じゃなかったかなあ、と心配です。短編に詰め込もうと思ったらこうなっちゃいました。
今回もダグの一人称ってことで、なんとなく「月色の是認」からつながるような感じになってますね。
はあ・・・見放されないといいなあ〜。


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