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エンデルク・ヤードは、報告を受けて眉根を寄せた。
部下のダグラス・マクレインのミスに関する報告。これで何度目だろう。
剣の稽古にも身が入っていないようだ。武闘大会も迫る大事な時期だというのに。
「また、おかしなものを口にしたのではあるまいな」
いつぞやの人格変貌事件を思い出すと、背筋が寒くなる。とりあえず、様子を見に行ってみることにした。

城門に立ったダグラスは、不機嫌そうな顔で、剣の先をがりがりと地面に突き刺していた。
エンデルクは眉を上げた。
ダグラス!
ダグラスは、びくっとして振り向いた。
「何をしている。剣は騎士の命。粗末に扱うな!」
「・・・すみません」
ダグラスはマントで剣をぬぐい、鞘に収めた。
「どうしたのだ、最近のお前は。ミスの報告ばかりが耳に届くが、具合でも悪いのか」
「いいえ。単なる俺の不注意です。申し訳ありません」
「稽古にも全く身が入っていないではないか。何か、心にかかることでも・・・」

おーい、ダグラスーっ!!

その時、街の方から、エリーが飛び跳ねるように駆けてきた。
聞いて聞いて聞いて、きゃーっ!!
そのままダグラスに飛びつく。ダグラスは目を白黒させた。
エ、エリー?!
何だか知らないが、狂喜乱舞している。
「あのね、今ね、アイゼルのところに行ったらね、アイゼルが・・・」
エリーはくくくっ、と嬉しそうに笑い、小声で囁いた。
ノルディスのこと、好きなんだって!
「・・・は?」
「わたし、もう誰かに話したくって!あ、今の、ノルディスには内緒ね!」
「・・・って、お前・・・」
「あ、ごめん、ダグラスは知らなかったよね。ノルディスもね、アイゼルのことが好きなんだよ。 わたし、相談受けてたんだ」
えっ・・・
「それで今度、新年に初日の出を見に誘って、太陽のブローチをプレゼントして告白するって言ってて・・・」
「この前の採取は、そのためだったのか」
「うん、そう!あああ、よかったあ。これで安心して眠れるよ。 このところ、ノルディスが失敗して落ち込んでる夢ばっかり見てたから」
エリーは心底ほっとした様子で両手を組み合わせた。
「・・・じゃあ、あの寝言は・・・なんだ、俺はてっきり・・・」
「え?」
「あ、いや、なんでもない。そうかあ、ノル公とアイゼルが。よかったな!」
「うん!」
急に晴れ晴れとしたダグラスの表情を見て、エンデルクは事態を察したらしい。
・・・ダグラス
「あ、隊長、まだいたんですか」
「あっ、エンデルク隊長!全然気が付かなかった。今の、聞いちゃいました?」
エンデルクは、ふうっとため息をついた。
「心配するな、他言はしない。・・・ダグラス。恋愛は自由だが、公務に差し支えのないように」
「は、はあ・・・」
「何の話?」
「い、いや」
エンデルクはそんな二人を見ながらもうひとつため息をつき、身を翻して去っていった。

「・・・そうだ!ダグラスも見に行こうよ、初日の出!」
エリーは思いつきに目を輝かせ、ぱちんと手を叩いた。
「は?お前、あいつらについてくのか?はっきり言って邪魔だぞ、趣味悪ぃな」
ダグラスはすっかりいつもの調子を取り戻している。エリーは軽く頬をふくらませた。
「違うよー、別口で行こうって言ってるの。ヴィラント山から見たら、すっごくきれいだよ、きっと」
「俺は別にかまわねえけど・・・」
「じゃ、決まりね。そのとき、わたしに何かちょうだい!」
「は?何でだよ。お前がくれるんじゃねえのか」
「理由はいいから!何でもいいの。そのへんで拾った石でもなんでも。ね?」
「ああ・・・?」
「じゃあね、約束だよ!」
エリーは満面の笑顔で、手を振って去っていった。


その日の夕方。
ダグラスは飛翔亭のテーブルに座り、いい気分でグラスを傾けていた。
「おや、坊や。機嫌がよさそうじゃない?何かいいことでもあったのかしら」
ロマージュがやってきてダグラスの顔をのぞきこみ、隣に腰掛けた。
「その坊やっての、やめてくれよ。俺にはダグラスって名前があるんだ」
「うふふ、今日は随分イキがいいわね。この前は、死んだ魚みたいだったけど」
「悪かったな」
「エリーちゃんと、初日の出見に行くんですって?」
ダグラスはぶっとワインを吹いた。
「ど、どうしてそれを」
「今日、エリーちゃんが来て嬉しそうに話してったわよ。・・・ねえ、そういえば知ってる?初日の出にまつわる伝説」
「え?いや・・・」
怪訝そうなダグラスを見ながら、ロマージュは意味深に笑った。
「うふふ。そお、知らないの。じゃあ、教えてあげるわ。あのね、こんな言い伝えがあるのよ。
“出で初めし日の光、二つの影を包む朝(とき)、貢を手にする乙女、そのかたわれと共に歩まん”。
新年の朝、ふたりきりで初日の出を見ながら男性が女性にプレゼントをすると、その恋人たちは必ず結ばれるんですって。 ちょっとロマンチックじゃない?・・・あら、どうしたの坊や。幸福のワインより真っ赤よ?ふふふ」

冬の気配が、ザールブルグを包む。
祝福を携えた新たなる年が、すぐそこまで迫っていた。

Fin.


≪あとがき≫
力量が足りないなあ、と思いつつも、なんとか形にしました。ダグエリらぶらぶです。(汗)
はとぽっぽさんに相互リンク記念だとかこじつけを言って、送りつけさせていただきました。
芸術の町にあるダグエリCG「眠り姫の誘惑」のリンク小説です。 ちなみに、○に様のとある小説にちょっぴりリンクしていたりもしますが・・・。
さて、最後のシーンの時、エリーは何をしていたか。
一生懸命、効力Sの晴天の炎を作成するべく、調合に励んでいることでしょう。 晴れないと、初日の出見れませんからね。(笑)
エリーはもちろん、ノルディスに協力していた都合上、伝説を知っています。 だからこそ、ダグラスにプレゼントをねだったわけです♪
初日の出伝説は、わたしのいいかげんな創作です。何にも根拠はありません。あしからず。


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