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わたしは砂を踏んでいた。
あの人を探して。
なぜかはっきりとその姿を思い出せない。
とてもよく知っているはずなのに、どうしてだろう。
でも、視界に入れば絶対に見逃すことはない。


会いたい。
会いたい。
あなたに。


わたしは・・・
わたしは・・・
わたしが今、胸が震えるほどに求めているものは。



突然。
まるで夢から醒めるように目の前が拓けた。



夕焼けで茜色に染まった砂丘の上に佇む、線の細い影。
風に吹かれる栗色の髪。
景色の中でくっきりと、その姿はわたしの心を焦がす。

足がもどかしく砂を踏む。
遠い影が、少しずつわたしの視界で大きくなってゆく。
ふと、影が砂の音に振り向いた。
わたしの姿を認めたその目は、一瞬驚きに見開かれ。
それから、ゆっくりと優しく微笑んだ。
そしてその声がわたしを呼んだ。
「エリー」、と。

どうしてわたしは今まで知らなかったんだろう。
気持ちはこんなにも・・・こんなにも、溢れていたのに。

・・・ノルディス

わたしは砂を蹴った。
よろめきながら、転びそうになりながら、走ってゆく。
彼は驚いて採取籠を脇に放ると、わたしを受け止めるために両手を広げ、駆け寄った。
急速に距離が縮まり、わたしは彼の腕に倒れ込んだ。

「だめだよ、無理しちゃ。一人で来たの?」
わたしは軽い眩暈を感じながら、その背中に腕を回し、肩に顔を埋めた。
耳元で、かすかに息を呑む音が聞こえた。
「・・・エリー?」
「ずっと、夢を見ていたの」
わたしは顔を埋めたまま、口を開いた。
「ノルディスを探していたの。会いたくて会いたくて、ずっと探していたの・・・!」
遠慮がちに背中に触れていた手に、ゆっくりと力が込められた。
「僕もずっと、君を呼んでいたよ」
目を上げると、優しい瞳にぶつかった。
「・・・やっと会えたね」
そう。
わたしはついに見つけたのだ。


側にいたのに、知らなかった。
見ていたのに、見えなかった。
でも、今は見える。知っている。
愛する人の顔、姿、声。



一日の終わりを名残惜しげに飾っていた燃えるような黄金の輝きを、涼やかな群青が安らぎに導く。

遠くには、波の音。
つむぐ言葉は歌のように優しく、息は羽根のように心地良く頬を撫で・・・
月の光は、静かに始まった悦びを壊さないように、新しい夢にたゆたう影を、 絹糸のようなやわらかさで包んでいた。

Fin.


≪あとがき≫
谷山浩子さんの歌「DESERT MOON」をテーマにした甘〜いノルエリ小説、 というリクエストにお応えするべく頑張りましたが、いかがだったでしょうか。
「DESERT MOON」(砂漠の月)だったら砂丘でしょう、ということで カスターニェを舞台にしてみました。
前半部分はやはりこちらも谷山浩子さんの歌、「夢の逆流」がイメージです。 できることならイメージ曲をBGMに流しつつ読むと盛り上がることでしょう。
それにしても・・・甘い小説は読み返すと恥ずかしいなあ;;


≪「DESERT MOON」の歌詞内容≫
(そのままでは著作権にひっかかりますので、
歌を知らない方のために歌詞の内容を要約します)

出逢ったそのとき、彼しか見えなくなった。
まるで幼い頃に憧れた、砂漠の月のような瞳に魅入られる。
彼と自分は同じ夢を見ている。彼となら死ぬまで一緒に歩いて行けると確信した。

今まで理解していると思っていた愛はただの思い込みで
これが初めてのたった一度の恋だと、今ならわかる。

今夜、真実の恋を知った二人の目の前は
月に手が届くかのように輝いている。

二人は、砂漠の月に夢を見る。


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