会いたい。
会いたい。
あなたに。
わたしは・・・
わたしは・・・
わたしが今、胸が震えるほどに求めているものは。
突然。
まるで夢から醒めるように目の前が拓けた。
足がもどかしく砂を踏む。
遠い影が、少しずつわたしの視界で大きくなってゆく。
ふと、影が砂の音に振り向いた。
わたしの姿を認めたその目は、一瞬驚きに見開かれ。
それから、ゆっくりと優しく微笑んだ。
そしてその声がわたしを呼んだ。
「エリー」、と。
どうしてわたしは今まで知らなかったんだろう。
気持ちはこんなにも・・・こんなにも、溢れていたのに。
「・・・ノルディス」
わたしは砂を蹴った。
よろめきながら、転びそうになりながら、走ってゆく。
彼は驚いて採取籠を脇に放ると、わたしを受け止めるために両手を広げ、駆け寄った。
急速に距離が縮まり、わたしは彼の腕に倒れ込んだ。
「だめだよ、無理しちゃ。一人で来たの?」
わたしは軽い眩暈を感じながら、その背中に腕を回し、肩に顔を埋めた。
耳元で、かすかに息を呑む音が聞こえた。
「・・・エリー?」
「ずっと、夢を見ていたの」
わたしは顔を埋めたまま、口を開いた。
「ノルディスを探していたの。会いたくて会いたくて、ずっと探していたの・・・!」
遠慮がちに背中に触れていた手に、ゆっくりと力が込められた。
「僕もずっと、君を呼んでいたよ」
目を上げると、優しい瞳にぶつかった。
「・・・やっと会えたね」
そう。
わたしはついに見つけたのだ。
遠くには、波の音。
つむぐ言葉は歌のように優しく、息は羽根のように心地良く頬を撫で・・・
月の光は、静かに始まった悦びを壊さないように、新しい夢にたゆたう影を、
絹糸のようなやわらかさで包んでいた。
≪あとがき≫
谷山浩子さんの歌「DESERT MOON」をテーマにした甘〜いノルエリ小説、
というリクエストにお応えするべく頑張りましたが、いかがだったでしょうか。
「DESERT MOON」(砂漠の月)だったら砂丘でしょう、ということで
カスターニェを舞台にしてみました。
前半部分はやはりこちらも谷山浩子さんの歌、「夢の逆流」がイメージです。
できることならイメージ曲をBGMに流しつつ読むと盛り上がることでしょう。
それにしても・・・甘い小説は読み返すと恥ずかしいなあ;;
出逢ったそのとき、彼しか見えなくなった。
まるで幼い頃に憧れた、砂漠の月のような瞳に魅入られる。
彼と自分は同じ夢を見ている。彼となら死ぬまで一緒に歩いて行けると確信した。
今まで理解していると思っていた愛はただの思い込みで
これが初めてのたった一度の恋だと、今ならわかる。
今夜、真実の恋を知った二人の目の前は
月に手が届くかのように輝いている。
二人は、砂漠の月に夢を見る。